営業停止や許可の取消しのように、国民に義務を課したり、権利を制限したりする処分が「不利益処分」です。
不利益処分は、相手にとって重い効果をもつため、行政庁がいきなり自由にできるわけではありません。どのような基準で処分するのか、なぜその処分をするのか、処分の前に相手の言い分を聞く必要があるのか。行政手続法は、こうした場面の手続を定めています。
今回は、不利益処分の前提となる「処分基準」の位置づけと、「理由の提示」「聴聞・弁明の機会の付与」という2つの手続を整理します。
不利益処分と処分基準・理由提示のルール
コタロー
先生! 前回、許認可のための「審査基準」は、作るのも公表するのも法的義務だと習ったよね。じゃあ、違反者を罰するための「処分基準」も、同じように義務なのかな?
ワンブル先生
コタローくん、そこが本試験でよく狙われるポイントだよ。実は「処分基準」は、設定も公表も両方「努力義務」なんだ。なぜ審査基準と違うのか、そして処分の前に相手の言い分を聞く「聴聞」と「弁明」の選び方まで、順番に整理していこう。
ここだけチェック
チェックリスト
- 審査基準は、設定も公表も法的義務
- 処分基準(しょぶんきじゅん)は、設定も公表も努力義務
- 不利益処分の理由は、処分と同時に示すのが原則
- 根拠条文だけを示す理由提示は、不十分とされる場合がある
- 許認可等の取消し・資格や地位のはく奪などの重い処分は聴聞、それ以外は弁明の機会の付与
審査基準と処分基準の違い
過去問では、審査基準と処分基準の扱いを入れ替えるひっかけが、たびたび出題されます。対比で正確に押さえましょう。
審査基準は、申請をパスさせるかどうかを判断するための物差しです。設定も公表も法的義務とされています。
処分基準は、不利益処分をするかどうか、またどのような不利益処分にするかを判断するための物差しです。たとえば、営業停止1か月にするのか、3か月にするのか、許可取消しにするのか、といった判断に関わります。こちらは設定も公表も努力義務にとどまります。
なぜ処分基準は努力義務でよいのか
許認可の審査基準は、国民が申請しやすくするために、あらかじめオープンにしておく必要があります。
しかし、違反者を罰する処分基準を細かく作って公開してしまうと、悪質な業者が「ここまでなら軽い処分で済む」などと見当をつけて、法の網をすり抜けようとするおそれがあります。
また、違反の悪質さは事案ごとの事情によって大きく異なります。あらかじめ画一的な基準を定めること自体が難しい面もあります。
こうした理由から、処分基準の設定・公表は努力義務にとどめられています。
コタロー
なるほど! 抜け道を教えないためにも、処分基準はあえて努力義務にしてあるんだね。審査基準は両方義務、処分基準は両方努力義務。この違い、わかったよ!
理由の提示義務とその程度
不利益処分は、国民の権利を直接制限する重大な処分です。そのため行政庁は、原則として、処分と同時に理由を示さなければなりません。書面で処分をする場合は、理由も書面で示します。
ここで注意したいのは、根拠となる条文だけを書いて済ませる理由提示では、不十分とされる場合があることです。
処分を受けた人が、具体的に何を理由に処分されたのかがわからなければ、理由提示の意味がありません。理由提示は、行政庁の判断を慎重にさせるためだけでなく、処分を受けた人が不服申立てや訴訟で争うべき点を判断できるようにするための制度でもあります。
次に紹介する判例は、根拠条文だけでなく具体的な事実も示されていたケースです。それでもなお理由提示が不十分とされた、一段階踏み込んだ重要な事例です。
判例:一級建築士免許取消処分事件(最判平23.6.7)
一級建築士のAさんは、複数の建物の設計者として、建築基準法令が定める構造基準に適合しない設計を行い、耐震性等が不足する構造上危険な建物を生み出していました。また、構造計算書に偽装が見られる設計も行っていました。
これを理由に、国土交通大臣はAさんに対して一級建築士免許の取消処分をしました。
処分の通知書には、こうした違反の具体的な事実と、根拠となる建築士法10条1項2号・3号という条文は書かれていました。
しかし、当時公にされていた処分基準のどの部分がどう当てはめられて、複数ある懲戒処分の中から一番重い「免許取消し」が選ばれたのかは、示されていませんでした。
争点は、事実と根拠条文が示されていても、処分基準の適用関係が示されていない理由提示が、行政手続法14条1項の要件を満たすかどうかです。
最高裁は、この理由提示は不十分であり、違法と判断しました。
理由提示の制度は、行政庁が思いつきで処分をすることを抑え、処分を受けた人が不服申立てで適切に反論できるようにするためのものです。
事実と根拠条文が示されていても、複雑な処分基準のどこがどう当てはめられて最も重い処分が選ばれたのかがわからなければ、名宛人は適切に反論できません。
名宛人とは
名宛人とは、行政処分の効果を直接受ける相手方のことです。この事件でいえば、一級建築士免許取消処分を受けた建築士本人を指します。
そのため、この事件では理由提示として足りないとされたのです。
聴聞と弁明の機会の付与
不利益処分をする前には、原則として、国民に言い分を主張する機会を与えなければなりません。この意見陳述のための手続は、処分の重さによって「聴聞」と「弁明の機会の付与」に分かれます。
聴聞は、口頭でのやり取りを中心とする重い手続です。次のような処分をするときに行われます。
聴聞の対象となる処分
- 許認可等を取り消す不利益処分
- 資格や地位を直接はく奪する不利益処分
- 法人の役員の解任や、会員の除名を命ずる不利益処分
- そのほか、行政庁が相当と認める処分
弁明の機会の付与は、書面での提出を基本とする簡易な手続です。聴聞の対象にあたらない、それ以外の不利益処分で行われます。たとえば、営業停止命令や金銭の納付命令などです。
緊急時の例外
公益上、緊急に不利益処分をする必要があるときは、事前の聴聞・弁明の手続を経ずに処分することができます。
たとえば、食中毒が発生した店を、被害の拡大を防ぐためすぐに営業停止にする場合です。このような場面で、事前にゆっくり手続を進めていると、かえって被害が広がってしまうおそれがあります。
まとめ
不利益処分は、相手の権利や利益を制限する処分です。そのため、行政庁には理由提示や意見陳述手続など、慎重に進めるための手続が求められます。
一方で、処分基準については、審査基準とは異なり、設定も公表も努力義務にとどまります。ここは試験で入れ替えられやすいので、最後にもう一度整理しておきましょう。
チェックリスト
- 審査基準は、設定も公表も法的義務
- 処分基準は、設定も公表も努力義務
- 不利益処分の理由は、処分と同時に示すのが原則
- 一級建築士免許取消処分事件では、処分基準の当てはめが示されていない理由提示が違法とされた
- 許認可等の取消しや資格・地位のはく奪など、重い不利益処分では聴聞が必要
- 聴聞にあたらない不利益処分では、弁明の機会の付与が必要
- 公益上緊急な場合は、事前の聴聞・弁明を経ずに処分できる