【行政作用法】行政行為の取消し・撤回と瑕疵の処理

行政行為が成立したあとに問題が見つかったとき、その効力はどのように処理されるのでしょうか。

最初から違法だった場合と、成立後に事情が変わった場合とでは、使う言葉も効力が消える時点も異なります。

さらに、行政行為のミスをあとから補えるのか、前の処分の違法を次の処分の裁判で主張できるのかという問題もあります。

今回は、職権取消しと撤回を出発点に、瑕疵の治癒、違法行為の転換、違法性の承継まで整理します。

行政行為の取消し・撤回と瑕疵の処理

コタロー

先生! 「行政行為の取消し」と「撤回」って、どちらも一度出した処分をなかったことにするんだよね? 何が違うの?

ワンブル先生

似ているけれど、違いは「いつ問題が生じたか」だよ。最初から問題があったのか、成立後に事情が変わったのかを見れば整理できるんだ。

取消しと撤回の違いを説明する4コマ漫画
「最初からダメ」か「あとからダメ」かで、取消しと撤回を見分けます。

ここだけチェック

チェックリスト

  • 職権取消しは、成立当初から違法・不当な瑕疵がある行政行為を取り消すもの
  • 撤回は、成立後の事情変化を理由に、適法だった行政行為の効力を失わせるもの
  • 取消しと撤回には、原則として法律上の明文の根拠は必要ない
  • 瑕疵の治癒と違法行為の転換は、行政行為の欠陥を例外的に補う考え方
  • 違法性の承継は、先行処分の違法を後行処分の争いで主張できるかという問題

職権取消しと撤回の違い

行政が一度出した処分の効力を自ら失わせる場面は、大きく職権取消しと撤回に分けられます。

試験では、「原因」「誰ができるか」「いつから効力が消えるか」を入れ替えた問題がよく出されます。

職権取消し

職権取消しは、行政行為が成立した当初から、違法または不当な欠陥である瑕疵があった場合に、その効力を失わせるものです。

処分をした行政庁である処分庁だけでなく、その上級行政庁も行うことができます。

取消しには原則として遡及効があります。処分が出された時点まで遡り、「最初からその行政行為がなかった」状態に戻します。

無資格の業者に誤って建設業の許可を出したため、あとから取り消す場合が一例です。

撤回

撤回は、成立時には適法だった行政行為について、あとから事情が変化したことを理由に効力を失わせるものです。

相手がルールを破った場合や、そのまま効力を残すことが公益に反するようになった場合などが当たります。

撤回を行うのは、原則として処分庁です。効力は過去に遡らず、撤回した時点から将来に向かって消滅します。

適法に与えられた運転免許が、その後の重大な違反を理由に取り消される場面は、行政法上の性質としては撤回に当たります。

取消しと撤回の比較
取消しは成立時の問題、撤回は成立後の事情を理由とします。

法律の根拠は原則として不要

取消しと撤回には、原則として法律上の明文の根拠は必要ありません。

行政には、違法・不当な状態を正し、公益を守る責任があります。そのため、個別の法律に「取り消すことができる」と書かれていなくても、行政自身の判断で行うことができると考えられています。

取消しに法律の根拠は不要であることを説明する漫画
行政の誤りを正すための取消しには、原則として明文の根拠は必要ありません。

ただし、国民にとって有利な行政行為まで、行政が自由に取り消したり撤回したりできるわけではありません。

許可や補助金の交付などの受益的行政行為については、相手が「この処分は今後も続く」と信頼して生活や事業を組み立てていることがあります。

そこで、行政が誤りを正す必要性や公益を守る必要性と、国民が受ける不利益を比較し、それでも取消し・撤回をする必要性が高い場合に限って認められます。

コタロー

明文の根拠がいらないからといって、行政が気分次第で国民に有利な処分を取り消していいわけではないんだね。

ワンブル先生

その通り。行政の必要性だけでなく、処分を信頼した国民が受ける不利益も考えなければならないんだ。

指定医師の指定撤回事件(最判昭63.6.17)

ある産婦人科医は、人工妊娠中絶を行うことのできる指定医師として認められていました。

しかし、指定後に、実子のないあっせん行為に関わっていたことが明らかになり、指定権限を持つ医師会は指定を撤回しました。

医師は、法律に撤回を認める明文の規定がないため、この撤回は違法だと主張しました。

争点は、法律上の明文の根拠がなくても、指定医師という有利な地位を撤回できるかです。

最高裁は、撤回を認めました

指定後に医師としての適格性を欠く事情が生じた場合、指定を残したままにすることは公益上問題があります。医師が受ける不利益と指定を撤回する公益上の必要性を比較し、撤回の必要性が高いと認められるなら、明文の規定がなくても撤回できると判断しました。

指定医師の指定撤回事件を説明する4コマ漫画
公益を守る必要性が高い場合は、明文の根拠がなくても撤回できることがあります。

瑕疵の治癒と違法行為の転換

行政行為に瑕疵があれば、原則として取消しや無効の問題になります。

一方、あとから不足が補われた場合や、別の行政行為として見れば要件を満たす場合には、例外的に効力を維持できないかが問題になります。

瑕疵の治癒

瑕疵の治癒とは、行政行為にあった軽微な欠陥があとから補われ、最初から適法な行政行為だったものとして扱う考え方です。

ただし、行政に都合よく使われると、法律が要求する手続を守る意味がなくなります。そのため、治癒が認められるかは慎重に判断されます。

青色申告の更正処分で、本来示すべき理由の記載が不十分だった事案では、その後の審査裁決で詳しい理由が示されても、瑕疵の治癒は認められませんでした(最判昭55.1.24)。

処分を受けた時点で理由を知り、不服申立てをするか判断できることに意味があるためです。あとから理由を付け足しても、その機会を取り戻すことはできません。

瑕疵の治癒が厳しく判断されることを説明する漫画
処分時に必要だった理由を、あとから示すだけでは治癒になりません。

違法行為の転換

違法行為の転換とは、Aという行政行為としては要件を満たさなくても、Bという別の行政行為の要件を満たしている場合に、Bとして有効に扱う考え方です。

行政が最初に選んだ形式には問題があるものの、別の適法な行政行為として必要な要件が備わっているなら、最初からやり直さずに効力を維持できないかを考えます。

もっとも、行政にとって都合のよい処理になりやすいため、国民の権利や利益を害しない場合に限って例外的に認められます。

死者への農地買収処分の転換(最判昭29.7.19)

戦後の農地改革で、国は地主である太郎さんを相手として農地を買収する処分をしました。

ところが、太郎さんはすでに亡くなっており、土地は息子の次郎さんが相続していました。死者を相手にした処分には、重大な瑕疵があります。

裁判では、この処分を相続人である次郎さんに対する処分として扱い、有効にできるかが問題になりました。

最高裁は、相続人に対する処分への転換を認めました

国が農地を買収する目的に変わりはなく、手続をやり直しても、結局は相続人に対して同じ処分を行うことになります。そこで、相続人の権利利益を害しないことを前提に、次郎さんに対する処分として有効に扱うことが認められました。

死者への農地買収処分の転換を説明する4コマ漫画
国民の権利利益を害しない場合は、別の行政行為として有効に扱われることがあります。

違法性の承継

違法性の承継とは、連続する複数の行政処分があるとき、後行処分の裁判で、先行処分の違法を主張できるかという問題です。

たとえば、ステップ1の処分を前提としてステップ2の処分が行われた場合に、「ステップ1が違法だから、ステップ2も取り消してほしい」と主張できるかを考えます。

原則として違法性は承継されない

先行処分の出訴期間が過ぎ、不可争力が生じたあとに、後行処分の裁判で先行処分の違法を主張することは、原則としてできません。

いつまでも前の処分を争えると、行政上の法律関係が安定しないためです。先行処分に不服があるなら、その処分を争える期間内に訴えることが原則になります。

例外的に承継が認められる場合

先行処分の時点では、国民に十分な争う機会が与えられていないこともあります。

最高裁は、次の事情がある場合に、例外的に違法性の承継を認めています。

チェックリスト

  • 先行処分と後行処分が結合し、同じ目的に向けて1つの法的効果を生じさせること
  • 先行処分を争うための手続保障が、国民に十分に与えられていなかったこと
違法性の承継が認められる例外条件
法的安定性と、争う機会を得られなかった国民の救済とのバランスが問題になります。

安全認定と建築確認事件(最判平21.12.17)

ある土地でマンションを建てる計画がありましたが、その土地は道路への接し方に関する基準を満たしていませんでした。

そこで、まず区長が、特例として安全上支障がないとする安全認定を行いました。その後、安全認定を前提として、建築主事が建築確認を行いました。

安全認定が先行処分、建築確認が後行処分という関係です。

近隣住民がマンション建設に気づいた時点では、安全認定を直接争える期間が過ぎていました。そこで、建築確認の取消訴訟で、前提となった安全認定の違法を主張できるかが問題になりました。

最高裁は、違法性の承継を認めました

安全認定と建築確認は、どちらも避難や通行の安全を確保するという同じ目的を持ち、安全認定は建築確認と結びついて初めて効果を発揮します。

また、安全認定は申請者以外に通知される仕組みではなく、建築確認が行われるまでは工事も始まりません。そのため、周辺住民が安全認定の存在を速やかに知り、その時点で争うことは難しい状況でした。

このように、2つの処分が同じ目的に向けて結びつき、先行処分を争う手続保障も十分でなかったため、建築確認の取消訴訟で安全認定の違法を主張することが認められました。

安全認定と建築確認の違法性の承継を説明する4コマ漫画
住民が知らないうちに進んだ一連の手続だったため、後行処分の裁判で先行処分の違法を争えました。

コタロー

原則とは反対の結論なんだね。先行処分を知って争う機会がなかったなら、あとから争うことを認めないと住民を救えないものね。

ワンブル先生

そうだね。「2つの処分が同じ目的に向けて結びついているか」と「先行処分を争う機会が十分にあったか」を確認しよう。

まとめ

職権取消しと撤回は、問題が生じた時点で区別します。

職権取消しは、行政行為が成立した当初からあった瑕疵を理由とし、原則として成立時まで遡って効力を失わせます。

撤回は、成立後の事情変化を理由とし、将来に向かって効力を失わせます。どちらも原則として法律上の明文の根拠は必要ありませんが、受益的行政行為では国民の信頼や不利益も考慮されます。

瑕疵の治癒と違法行為の転換は、行政行為の欠陥を例外的に補う考え方です。行政に都合よく使われないよう、認められる範囲は限定されます。

違法性の承継は原則として認められません。ただし、先行処分と後行処分が同じ目的に向けて結びつき、先行処分を争う手続保障が十分でなかった場合には、例外的に承継が認められます。

チェックリスト

  • 職権取消しは、成立時からの瑕疵を理由とし、原則として過去に遡る
  • 撤回は、成立後の事情を理由とし、将来に向かって効力を失わせる
  • 取消し・撤回には原則として明文の法律上の根拠は不要
  • 受益的行政行為の取消し・撤回では、公益と国民の不利益を比較する
  • 瑕疵の治癒は厳しく判断され、理由の後出しでは認められない
  • 違法行為の転換は、国民の権利利益を害しない場合に例外的に認められる
  • 違法性の承継は原則として否定されるが、手続保障が不十分な場合などに例外がある
  • 安全認定と建築確認の判例では、違法性の承継が認められた