行政手続法は、行政が処分や行政指導をするときの手続を整える法律です。
ただし、国の行政機関だけでなく、市役所や県庁が動く場面でも、いつも同じように行政手続法が使えるわけではありません。
特に地方公共団体については、「その行為の根拠が国の法律なのか、自治体の条例・規則なのか」で扱いが大きく変わります。
今回は、地方公共団体に行政手続法が適用される場面、適用除外になる場面、そして国や自治体が「一般の私人と同じ立場」で申請する場合の特例を整理します。
地方公共団体への適用と適用除外
コタロー
先生! 市の景観条例に違反したから、市長から建物を直すよう命じられそうなんだ。行政手続法を使って、事前に言い分を聞いてもらえるよね?
ワンブル先生
まず見るのは、処分の根拠が国の法律なのか、自治体の条例・規則なのかだよ。根拠が条例や規則なら、国の行政手続法は全面適用除外になるんだ。
ここだけチェック
今回のポイントを先に並べておきます。
チェックリスト
- 地方公共団体の処分等は、根拠が条例・規則なら行政手続法が全面適用除外になる
- 法律に基づく地方公共団体の処分・届出には行政手続法が適用される
- 法律に基づいていても、地方公共団体が行う行政指導・命令等制定手続は適用除外になる
- 国の機関等が固有の資格で処分等を受けるときは適用除外になる
- 国の機関等でも一般国民と同等の立場なら行政手続法が適用される
- 不服申立てに対する裁決・決定は行政手続法の適用除外になる
- 地方公共団体には、行政手続法の趣旨に沿って必要な措置を講ずる努力義務がある
地方公共団体のルールは根拠で分ける
地方公共団体に対する行政手続法の適用関係は、「誰がやったか」だけでは決まりません。
市長や県知事がした行為でも、その根拠が国の法律なのか、自治体の条例・規則なのかで結論が変わります。
条例・規則に基づく行為は全面適用除外
行政手続法3条3項は、地方公共団体の機関がする処分、行政指導、届出、命令等制定手続について、一定の場合に行政手続法を適用しないと定めています。
いちばん大事なのは、条例または規則に根拠を置く行為です。条例は議会の議決を経て作られる自治体のルール、規則は市長や知事などが定める自治体内部のルールです。どちらも、国の法律そのものではなく、地方公共団体が作るルールだと押さえてください。
たとえば、市の景観条例に基づいて建築物の外観変更を求める処分をする。県の条例に基づいて独自の許可制度を運用する。こうした場面では、国の行政手続法は使われません。
ここでいう「全面適用除外」とは、処分だけでなく、行政指導、届出、命令等制定手続も含めて、行政手続法の対象から外れるという意味です。
では、何の手続もなく自由に進めてよいのかというと、そうではありません。自治体には、それぞれの行政手続条例などによって、地域の実情に合った手続ルールを整えることが予定されています。
コタロー
条例や規則が根拠なら、国の行政手続法ではなく、その自治体の手続条例を見るんだね。
ワンブル先生
その通り。自治体独自のルールには、自治体側の手続ルールで対応する、という整理だね。
法律に基づく処分・届出は適用される
地方公共団体の行為でも、根拠が国の法律にある場合は話が変わります。
たとえば、建築基準法に基づく建築確認や、都市計画法に基づく許可のように、国の法律が定めた制度を、地方公共団体の機関が実施する場面があります。
この場合、地方公共団体は、国の法律を実施する機関として動いています。そのため、処分や届出については、行政手続法のルールが適用されます。
申請に対する審査基準を定める、申請拒否の理由を示す、不利益処分の前に聴聞や弁明の機会を与える。こうした行政手続法上のルールが問題になります。
法律に基づく行政指導・命令等制定手続は適用除外
ただし、根拠が国の法律なら、地方公共団体の行為すべてに行政手続法がかかるわけではありません。
地方公共団体が行う行政指導や命令等制定手続については、たとえ根拠が法律にあっても、行政手続法は適用除外になります。
行政指導は、地域の実情や現場の事情に応じて行われることが多い活動です。命令等制定手続も、自治体が規則や審査基準を整える場面では、地方自治の考え方が強く働きます。
そこで、地方公共団体が行う行政指導や命令等制定手続については、国の行政手続法をそのまま重ねるのではなく、自治体ごとの手続整備に委ねる形になっています。
国の機関等が受ける処分・届出の特例
行政手続法には、国の機関や地方公共団体などが処分や届出の相手方になる場合の特例もあります。
ここでのポイントは、その団体が「固有の資格」で相手方になっているのか、それとも「一般国民と同等の立場」で相手方になっているのかです。
固有の資格なら適用除外
国の機関や地方公共団体が、行政主体としての特別な立場で処分を受ける場合があります。
たとえば、国の大臣が都道府県知事に対して事務処理について指示する、国の機関が自治体の事業計画を承認する、複数の自治体が公共施設の設置について協議する、といった場面です。これは、一般の国民が許可申請をする場面とは性質が違います。
このように、国や地方公共団体だからこそ立つことができる特別な地位を「固有の資格」といいます。
固有の資格で処分や届出の相手方になる場合、行政手続法は適用除外になります。一般国民の権利利益を手続で保護する場面ではなく、行政内部や行政主体間の関係を調整する場面だからです。
一般国民と同等の立場なら適用される
一方で、国や地方公共団体であっても、一般の民間人や民間事業者と同じ立場で申請することがあります。
たとえば、市がバス事業を行うために、道路運送法上の路線バス事業の許可を申請する場面です。このとき市は、行政主体として上から命令する立場ではなく、バス事業者として許可を求める立場にいます。
このような場面では、相手が地方公共団体であっても、一般国民と同等の立場にあるため、行政手続法が適用されます。
不服申立てへの裁決・決定は適用除外
行政手続法は、処分が出る前後の手続を整える法律です。
そのため、処分に不服がある人が行政不服審査法に基づいて審査請求をし、その結果として裁決や決定がされる場面には、行政手続法は原則として重ねて適用されません。
不服申立ての手続には、行政不服審査法という別のルールがあります。そこに行政手続法の申請処分や不利益処分のルールをさらに重ねると、制度の役割分担がわかりにくくなります。
したがって、不服申立てに対する裁決・決定は、行政手続法の適用除外として押さえます。
地方公共団体には努力義務がある
条例・規則に基づく地方公共団体の行為には、国の行政手続法が直接適用されません。
しかし、それは「自治体なら手続を整えなくてよい」という意味ではありません。
行政手続法46条は、地方公共団体に対して、行政手続法の趣旨にのっとり、必要な措置を講ずるよう努めなければならないとしています。
つまり、国の行政手続法が直接かからない場面でも、自治体には、行政運営の公正や透明性を確保するために、行政手続条例などで必要なルールを整えることが期待されているのです。
ケースで確認する
最後に、いくつかの場面で適用関係を確認しておきましょう。
ケース1:法律に基づく建築確認申請の拒否
A市で、建築基準法に基づく建築確認申請が拒否されたとします。
建築確認は、国の法律である建築基準法に基づく処分です。地方公共団体の機関が扱っていても、根拠は法律です。
この場合は、行政手続法の申請に対する処分のルールが適用されます。審査基準や理由提示が問題になります。
ケース2:条例に基づくマンション建設許可の拒否
B市が、景観条例に基づいてマンション建設の許可を拒否したとします。
この処分の根拠は、市の条例です。
したがって、国の行政手続法は全面適用除外になります。手続のルールは、B市の行政手続条例などで確認することになります。
ケース3:法律に基づく自治体の行政指導
C市が、都市計画法に関係する開発計画について、事業者に計画の見直しを求める行政指導をしたとします。
根拠に国の法律が関係していても、地方公共団体が行う行政指導については、行政手続法が適用除外になります。
処分と届出は適用される一方、行政指導と命令等制定手続は除外される。このズレが試験で狙われやすいところです。
ケース4:市が民間事業者と同じ立場で許可を申請する場合
D市が、市営バス事業を行うため、道路運送法上の路線バス事業の許可を申請したとします。
この場面でD市は、行政主体として特別な監督関係に入っているわけではありません。民間のバス会社と同じように、事業者として許可を求めています。
そのため、D市は一般国民と同等の立場にあり、行政手続法が適用されます。
まとめ
地方公共団体への行政手続法の適用関係は、細かく見えるわりに、判断軸はかなりシンプルです。
まず、根拠が条例・規則なら、国の行政手続法は全面適用除外になります。次に、根拠が法律なら、地方公共団体の処分・届出には行政手続法が適用されます。ただし、行政指導と命令等制定手続は適用除外です。
さらに、国の機関や地方公共団体が処分の相手方になる場合は、固有の資格か、一般国民と同等の立場かを見ます。
チェックリスト
- 条例・規則に基づく地方公共団体の行為は、行政手続法が全面適用除外
- 法律に基づく地方公共団体の処分・届出は、行政手続法が適用される
- 法律に基づいていても、地方公共団体の行政指導・命令等制定手続は適用除外
- 国の機関等が固有の資格で相手方になる場合は適用除外
- 国の機関等でも一般国民と同等の立場なら適用あり
- 不服申立てに対する裁決・決定は行政手続法の適用除外
- 地方公共団体には、行政手続法の趣旨に沿った手続整備の努力義務がある