営業許可、免許、補助金の交付決定。
こうした「ください」と求める手続では、申請する側だけでなく、受け取る役所側にも守るべきルールがあります。
役所は、どんな基準で判断するのかを明らかにしておく必要があります。申請書に不備があれば、放置せずに対応しなければなりません。不許可にするなら、なぜダメなのかを相手に伝える必要があります。
今回は、行政手続法のうち、申請に対する処分のルールを整理します。特に、審査基準、標準処理期間、理由提示、そして個人タクシー免許事件が試験で狙われやすいポイントです。
申請に対する処分と審査基準・理由提示
コタロー
先生、役所に申請を出したあとって、こっちはただ結果を待つしかないの? いつまでに返事が来るのかも、どんな基準で判断されるのかも分からないと不安だよ。
ワンブル先生
そこを整えるのが、行政手続法の「申請に対する処分」のルールだよ。審査基準、標準処理期間、不備への対応、理由提示をセットで押さえよう。
ここだけチェック
今回のポイントを先に並べておきます。
チェックリスト
- 審査基準は、申請を許可するかどうかを判断するための基準
- 審査基準は、行政上特別の支障があるときを除き、公表しなければならない
- 標準処理期間は、申請から処分までに通常かかる期間の目安
- 標準処理期間の設定は努力義務だが、定めた場合は公表義務がある
- 標準処理期間を過ぎても、申請が自動的に拒否されたことにはならない
- 申請書に不備がある場合、行政庁は補正を求めるか、拒否処分をする
- 申請拒否の理由提示は、単なる条文の丸写しでは足りないことがある
- 個人タクシー免許事件では、基準の適用過程における手続の重要性が問題になった
審査基準と標準処理期間を分ける
申請に対する処分でまず押さえるのは、「審査基準」と「標準処理期間」の違いです。
名前は似ていませんが、どちらも「申請を出したあと、役所はどう動くべきか」に関係するため、セットで問われます。
審査基準
審査基準とは、申請により求められた許可・認可・免許などをするかどうかを判断するために、行政庁が定める基準です。
たとえば、飲食店営業許可であれば、施設の衛生状態や設備が一定の基準を満たしているか。道路使用許可であれば、交通の安全や周辺への支障がないか。こうした判断のものさしが審査基準です。
行政手続法5条は、行政庁に審査基準を定める義務を置いています。そして、行政上特別の支障があるときを除き、審査基準を公にしておかなければなりません。
つまり、「基準は役所の頭の中にだけあります」では困る、ということです。申請者が事前に見通しを立てられるようにするため、審査基準は原則として外から分かる形にしておく必要があります。
標準処理期間
標準処理期間とは、申請が役所に到達してから処分がされるまでに、通常どのくらい時間がかかるかの目安です。
こちらは、審査基準と違い、定めること自体は努力義務です。行政庁は、できる限り標準処理期間を定めるよう努める、という位置づけです。
ただし、標準処理期間を定めた場合は、公にしておかなければなりません。
ここで引っかかりやすいのが、「標準処理期間を過ぎたら、自動的に申請拒否になるのか」という点です。
行政手続法には、標準処理期間の経過によって申請が拒否されたものとみなす規定はありません。期間を過ぎたからといって、当然に不許可になったり、裁判で争う対象が自動的に発生したりするわけではないのです。
コタロー
審査基準は「どう判断するか」、標準処理期間は「どれくらいで判断するか」なんだね。
ワンブル先生
そう。しかも義務の強さが違う。審査基準は設定・公表が義務、標準処理期間は設定が努力義務、公表は義務。この組み合わせで覚えよう。
不備ある申請を放置してはいけない
申請書に必要な書類が足りない、記載漏れがある、形式が整っていない。
こうした不備がある場合でも、行政庁は申請をそのまま放置できません。
行政手続法7条は、申請が到達したときは、行政庁が遅滞なく審査を開始しなければならないとしています。そして、申請が形式上の要件に適合しない場合には、相当の期間を定めて補正を求めるか、申請により求められた許認可等を拒否しなければなりません。
補正とは、不足書類を出してもらう、記載漏れを直してもらうなど、申請を審査できる状態に整えることです。
大事なのは、「不備があるから、机の上に置いたままにしておく」という対応は許されないことです。補正させるのか、拒否するのか。行政庁は、手続を前に進める必要があります。
拒否処分には理由提示が必要
申請を拒否するとき、行政庁は原則として、申請者に理由を示さなければなりません。
理由提示が必要なのは、単に「納得してもらうため」だけではありません。行政庁自身に慎重で合理的な判断をさせるためでもあり、申請者が不服申立てや訴訟で争うべきかを判断できるようにするためでもあります。
また、処分を書面でするときは、理由も書面で示す必要があります。
では、どの程度の理由を書けばよいのでしょうか。
「法律の何条にあたるからダメです」と条文番号だけを書くのでは、足りないことがあります。申請者から見て、どの事実が問題とされ、どの基準に当てはめられた結果として拒否されたのかが分かる必要があるからです。
旅券(パスポート)発給拒否事件(最判昭60.1.22)
旅券、つまりパスポートの発給を申請した人に対して、外務大臣が発給を拒否した事件です。
問題になったのは、拒否理由として法律の規定を示すだけで足りるのか、という点でした。
最高裁は、申請者がどのような理由で拒否されたのかを知り、不服申立てや訴訟を検討できるようにするためには、根拠条文を示すだけでは不十分な場合があるとしました。
もちろん、理由の詳しさは処分の性質や事案によって変わります。しかし、申請者から見て「結局、どの事実が問題だったのか」が分からないような書き方では、理由提示の趣旨を満たしません。
公聴会と複数行政庁の協力
申請に対する処分では、申請者本人だけでなく、周辺住民や関係事業者など、第三者の利益が問題になることがあります。
このような場面で、行政庁は必要に応じて公聴会の開催など、第三者の意見を聞く機会を設けるよう努めなければなりません。
公聴会とは、行政が判断する前に、関係する人たちから公開の場で意見を聞く手続です。たとえば、大型施設の設置、廃棄物処理施設の許可、交通や生活環境に大きく関わる事業などでは、申請者以外の人たちにも影響が及ぶことがあります。
ただし、公聴会の開催は努力義務です。必ず開かなければならない、という義務ではありません。
また、一つの申請について複数の行政庁が関係することもあります。たとえば、ある施設の設置に、建築、環境、消防、道路など複数の部署の確認が関係するような場合です。
このようなとき、関係する行政庁は、審査が円滑に進むよう互いに連絡を取り、必要に応じて審査の進行状況について申請者に情報を提供するよう努めるものとされています。ここも努力義務として整理します。
個人タクシー免許事件(最判昭46.10.28)
申請に対する処分では、審査基準そのものだけでなく、その基準をどのように当てはめるかも問題になります。
この点で重要なのが、個人タクシー免許事件です。
個人タクシーの免許を申請した運転手が、不許可処分を受けました。当時、行政庁は内部的な審査基準を持っていましたが、その基準の一部について、申請者本人に事情を説明したり、証拠を出させたりする機会を十分に与えないまま判断していました。
特に問題になったのは、事故歴や運転経歴のように資料から比較的はっきり分かる事項だけでなく、本人の意思や生活状況など、申請者から事情を聞かなければ正確に判断しにくい事項も審査に含まれていたことです。
最高裁は、このような場合、行政庁が設定した基準を公正に適用するために、申請者に主張と証拠提出の機会を与える必要があるとしました。その機会を与えないまま不許可にした処分は、違法と判断されています。
この判例は、「申請なら何でも自由に拒否できる」という話ではありません。
行政庁に裁量がある場面でも、基準を作った以上、その基準を公正に使う必要があります。そして、判断の前提となる事実が申請者の説明に左右されるような場合には、本人に説明や証拠提出の機会を与えることが求められるのです。
コタロー
基準があるだけじゃなくて、その基準をどう使ったかも見られるんだね。
ワンブル先生
そうだよ。申請に対する処分では、「基準を作る」「見えるようにする」「不備に対応する」「拒否するなら理由を示す」という流れで整理すると分かりやすいよ。
まとめ
最後に、今回の内容を整理します。
チェックリスト
- 審査基準は、申請を許可するかどうかの判断基準であり、設定・公表が義務
- 標準処理期間は、処分までの通常の目安であり、設定は努力義務、定めた場合の公表は義務
- 標準処理期間を過ぎても、申請が拒否されたものとはみなされない
- 申請に不備がある場合、行政庁は補正を求めるか、拒否処分をする
- 申請拒否処分では、原則として理由提示が必要
- 理由提示は、申請者が拒否理由を理解し、争うべき点を判断できる程度に具体的でなければならない
- 公聴会の開催や複数行政庁の審査促進は、努力義務として整理する
- 個人タクシー免許事件では、基準を公正に適用するための主張・証拠提出の機会が問題になった