役所からの「お願い」である行政指導は、柔軟に問題を解決できる便利な手段です。
ただし、見た目は「お願い」でも、実際には「申請を取り下げろ」「言うことを聞かないと別の許可を出さないぞ」と、権限をちらつかせて迫るような場面も起こり得ます。
そこで行政手続法は、行政指導をする側が守るべきルールと、国民側が使える防衛手段を定めています。今回は、行政指導の3大NG行為、書面交付請求権、行政指導指針、中止等の求め・処分等の求めを整理します。
行政指導のルールと書面交付請求・中止等の求め
コタロー
先生! 行政指導って、命令じゃなくて「お願い」なんだよね? それなら、役所は最初から命令を出せばいいんじゃないの? それに、窓口で口頭で「申請を取り下げてよ」ってしつこく言われたら、どうやって身を守ればいいのかな?
ワンブル先生
良い疑問だね、コタローくん。行政指導は、国民と話し合って柔軟に解決するための道具なんだ。ただ、口頭で行われることも多いから、圧力をかけやすい危険もある。だから行政手続法には、やってはいけないことと、国民側の対抗手段が用意されているんだよ。
行政指導とは、行政機関がその任務や所掌事務の範囲内で、一定の行政目的を実現するために、特定の者に対して行う指導・勧告・助言などで、処分にあたらないものをいいます(行政手続法2条6号)。
不特定多数への呼びかけ、たとえば「ポイ捨てはやめましょう」という街頭広報のようなものは、ここでいう行政指導には含まれません。行政指導は、あくまで特定の相手に向けて行われるものです。
また、行政指導は命令ではありません。従うかどうかは、相手方の任意の協力に委ねられます。
法律を改正したり、厳格な処分を出したりするには時間がかかることがあります。行政指導なら、国民の自発的な協力を得ながら、柔軟に問題を解決できる場合があります。その一方で、法律の縛りが緩い分、国民の目の届かない場面で圧力の温床になりやすいという危険もあります。
ここだけチェック
チェックリスト
- 行政指導は、特定の者に対する任意の事実行為であり、処分ではない
- 指導に従わないことを理由とする不利益取扱いは禁止される(32条2項)
- 申請の取下げや変更を拒否されたのに指導を続け、権利行使を妨げることは禁止される(33条)
- 権限を行使する意思や権限がないのに、あるように装って従わせることは禁止される(34条)
- 口頭指導は、書面の交付を請求できる(35条3項)
- 中止等の求め・処分等の求めは、法律に基づく行政指導・処分に限られる
行政指導の3大NG行為
行政手続法は、行政指導を行う職員に対して、いくつかの禁止ルールを置いています。
試験では、特に次の3つをセットで押さえます。
不利益取扱いの禁止(法32条2項)
行政指導に従わなかったことを理由にして、相手方に不利益な取扱いをしてはなりません。
たとえば、「この指導に従わないなら、今後の申請で不利に扱う」といった対応は許されません。行政指導は任意の協力を前提にするものなので、従わなかったからといって、別の場面で不利益を与えることはできないのです。
申請取下げ等の強要禁止(法33条)
許認可の申請を出した国民に対して、役所が「申請を取り下げてほしい」「内容を変更してほしい」と行政指導することがあります。
しかし、申請者が行政指導に従う意思がないことを表明したにもかかわらず、行政指導を続け、申請者の権利行使を妨げることは禁止されています。
「お願い」と言いながら、申請を前に進めないことで実質的に取下げを迫るようなことはできません。
権限のチラつかせ・ハッタリの禁止(法34条)
許認可を取り消す権限がない場合や、その権限を行使する意思がない場合に、あたかも権限を行使できるかのように装って、相手方を従わせることも禁止されています。
行政指導は、相手方の任意の協力を求めるものです。権限をちらつかせて心理的に追い込むようなやり方は、行政指導の限界を超えます。
判例:品川マンション事件(最判昭60.7.16)
マンション建築の確認申請を出した建築業者に対し、東京都の建築主事は「周辺住民との話し合いで解決してほしい」と行政指導を行いました。
建築主事とは
建築主事とは、建築確認などを行うために置かれる行政機関の担当者です。建築計画が建築基準関係規定に適合しているかを確認する役割を持ちます。
業者は当初この指導に協力し、住民と何度も話し合いを重ねました。しかし、その途中で新しい高度地区規制の実施が発表されるなど事情が変わり、これ以上待つことが難しくなりました。
そこで業者は、「これ以上、確認を留保されたままの話し合いには協力できない」と明確に伝え、確認処分をすぐに出すよう求めました。それでも東京都は、住民との合意ができるまで確認処分を留保し続けました。
争点は、行政指導への協力を求めるために、建築確認をどこまで留保できるかです。
最高裁は、指導に従わない意思を真摯かつ明確に示した後も留保を続けた行為は違法と判断し、東京都に国家賠償責任を認めました。
建築確認は、要件に適合していれば速やかに行うべきものです。行政指導への協力を求めて一時的に留保すること自体は、直ちに違法とはいえません。
しかし、建築主が「これ以上は協力できない」と真摯かつ明確に表明し、速やかな応答を求めているときは、もはや留保を受け入れさせることはできません。それ以降の留保は、社会通念上許される限度を超えるものとして、違法と評価されました。
書面交付請求権:口頭指導への対抗手段
行政指導は、窓口や電話などで口頭で行われることがあります。
口頭のままだと、あとから「そんなことは言っていない」「どういう内容だったのかがあいまいだ」という問題が起こりやすくなります。
そこで行政手続法35条は、行政指導を行うときに、相手方に対して趣旨・内容・責任者を明確に示すことを求めています。
さらに、行政指導が口頭でされた場合、相手方は行政庁に対して、その内容を記載した書面の交付を求めることができます。これが書面交付請求権です。
この請求を受けた行政機関は、行政上特別の支障がない限り、書面を交付しなければなりません。
ただし、すべての口頭指導で書面交付が必要になるわけではありません。その場ですぐに終わる軽微な指導や、すでに書面で通知済みの内容と同じ場合などは、交付しなくてもよいとされています。
ワンブル先生
口頭だけだと、相手方にとって何を求められているのかが残りにくいよね。だから「紙で出してください」と求めることができて、役所は原則として断れないルールになっているんだ。
複数人向けの行政指導指針
同一の行政目的を達成するために、2人以上の複数の者に対して行政指導をする場合があります。
たとえば、エリア内の複数の飲食店に対して一斉に衛生指導をする場合や、一定地域の事業者に共通の改善を求める場合です。
このような場合、行政機関は、あらかじめ共通のルールである行政指導指針を定めなければなりません。行政指導指針とは、どのような方針・基準で行政指導をするのかを示すものです。
また、行政上特別の支障がない限り、行政指導指針を公表する義務もあります。
中止等の求めと処分等の求め
平成26年改正で、国民側から行政にアクションを起こせる手続として、中止等の求めと処分等の求めが設けられました。
どちらも重要ですが、対象となる行政指導・処分の根拠が法律に置かれているものに限られます。条例を根拠とする行政指導・処分は対象外です。
行政指導の中止等の求め(法36条の2)
法令違反の是正を求める行政指導のうち、根拠が法律に置かれているものについて、その相手方は、行政指導が法律の定める要件に適合していないと考えるとき、行政指導をした行政機関に対して、指導の中止その他必要な措置を申し出ることができます。
申出を受けた行政機関は、必要な調査を行い、その行政指導が法律の定める要件に適合しないと認めるときは、指導の中止その他必要な措置をとらなければなりません。
ただし、その行政指導が、相手方について弁明その他の意見陳述の手続を経てされたものであるときは、中止等の求めはできません。
処分等の求め(法36条の3)
法令違反の事実があるのに、必要な処分や行政指導がされていないと考える場合があります。
このとき、根拠が法律に置かれている処分・行政指導については、何人も、権限を持つ行政庁・行政機関に対して、処分や行政指導を行うよう申し出ることができます。
申出を受けた行政庁・行政機関は、必要な調査を行い、必要があると認めるときは、処分や行政指導を行わなければなりません。
まとめ
行政指導は、命令ではなく、相手方の任意の協力を前提とする手続です。
だからこそ、行政庁は「お願い」の形を借りて、実質的に強制するようなことはできません。指導に従わないことを理由とする不利益取扱い、申請取下げ等の強要、権限をちらつかせるハッタリは、行政手続法上の重要な禁止事項です。
口頭で行政指導を受けた場合には、書面の交付を求めることができます。また、法律に基づく行政指導・処分については、中止等の求めや処分等の求めも問題になります。
チェックリスト
- 行政指導は、特定の者に対する任意の事実行為であり、処分ではない
- 行政指導に従わない相手に不利益な取扱いをしてはならない(32条2項)
- 申請者が従わない意思を示した後も行政指導を続け、権利行使を妨げてはならない(33条)
- 権限を行使する意思や権限がないのに、あるように装って従わせてはならない(34条)
- 口頭指導を受けた相手方は、書面の交付を請求できる(35条3項)
- 2人以上の者に対する行政指導では、行政指導指針が問題になる(36条)
- 中止等の求めは、法律に基づく行政指導について、相手方が申し出られる(36条の2)
- 処分等の求めは、法律に基づく処分・行政指導について、何人も申し出られる(36条の3)