行政の活動は、いつも一方的に「許可します」「命令します」と行われるわけではありません。
市が民間会社と庁舎の建設契約を結ぶ。自治体と事業者が公害を防ぐための協定を結ぶ。水道のような公共サービスを、契約の形で利用させる。
このように、行政が相手方との合意によって行政目的を実現するものを、行政契約といいます。
また、行政は「将来この地域をこう整備する」「この場所に道路を通す」といった計画を立てることもあります。これが行政計画です。
今回は、行政契約の3つの区分、契約ルールに違反した場合の効力、公害防止協定、行政計画の処分性や計画保証責任を整理します。
行政契約と行政計画
コタロー
先生! 市役所が民間会社と結ぶ「行政契約」って、ボクたちがお店で買い物する普通の契約と何が違うの? あと、市が立てる「都市計画」って、途中で変えられても文句は言えないの?
ワンブル先生
いい質問だね。行政契約も、基本はお互いの合意で成り立つ契約だよ。ただ、行政活動の性質によって見方が変わるし、税金を使う契約では手続ルールも問題になる。行政計画では、計画を信じた人をどこまで保護するかが大事なんだ。
ここだけチェック
今回のポイントを先に並べておきます。
チェックリスト
- 行政契約は、準備行政・侵害行政・給付行政の3つに分けて考える
- 行政契約は、原則として法律の根拠がなくても結べる
- 随意契約の制限に違反しても、契約が当然に無効になるとは限らない
- 公害防止協定には、法律の根拠がなくても法的拘束力が認められることがある
- 行政計画は原則として処分ではないが、例外的に処分性が認められることがある
- 計画を信頼して投資した人を裏切ると、国家賠償責任が問題になることがある
行政契約は3つに分けて考える
行政契約とは、行政主体が行政目的を実現するために、相手方との合意によって結ぶ契約です。
行政行為は、行政が一方的に相手へ法的効果を及ぼすものです。これに対して、行政契約は「行政と相手方が合意する」点に特徴があります。
ただし、行政契約といっても中身は一つではありません。何のために契約を結ぶのかによって、準備行政・侵害行政・給付行政の3つに分けると見通しがよくなります。
準備行政の契約
準備行政とは、行政が仕事をするための道具や環境を整える活動です。
市が庁舎の建設工事を民間会社に発注する契約、役所が事務用品やパソコンを購入する契約がこれに当たります。
行政の仕事の準備ではありますが、契約の形はかなり民間同士の取引に近いものです。そのため、基本的には民法や商法のルールで考える場面が多くなります。
侵害行政の契約
侵害行政とは、国民の権利を制限したり、義務を課したりする方向の行政活動です。
たとえば、自治体と事業者が「一定の期限後は廃棄物処分場を使わない」と約束する公害防止協定があります。事業者の活動を制限する内容なので、侵害行政の契約として問題になります。
ここでは、「合意があるなら法律の根拠なしに制限をかけてもよいのか」「その約束にどこまで拘束力があるのか」が試験で狙われます。
給付行政の契約
給付行政とは、国民にサービスや利益を提供する行政活動です。
水道の供給契約、公営住宅の使用関係、公共施設の利用関係などがイメージしやすいでしょう。
給付行政の契約では、契約の形をとっていても、行政が公共サービスを担っていることから、民間の契約とまったく同じに扱えない場面があります。正当な理由なく利用を拒めるのか、利用者を不公平に扱っていないか、といった視点が重要です。
コタロー
行政契約って名前だけ見ると難しいけど、「役所が何のために契約しているのか」を見ると分けやすいね。
ワンブル先生
その通り。準備行政は役所の準備、侵害行政は権利制限、給付行政はサービス提供。この3つでまず整理しよう。
行政契約に法律の根拠は必要か
行政契約は、お互いの合意によって成り立つ契約です。
そのため、行政行為のように、行政が一方的に国民の権利義務を動かす場面とは性質が違います。
原則として、行政契約を結ぶために個別の法律の根拠は必要ありません。侵害行政に関わる契約であっても、相手方が自由な意思で合意しているなら、ただちに「法律の根拠がないから無効」とは考えません。
もっとも、契約という形を使えば何でもできるわけではありません。相手方の自由な意思がない、内容が法令や公序良俗に反する、平等原則に反する、といった場合には違法・無効の問題が出てきます。
税金を使う契約では手続ルールが問題になる
自治体が民間会社と契約するときには、税金が使われます。
そのため、自治体の契約は、原則として一般競争入札によることが予定されています。多くの業者に競争してもらい、価格や条件を比べることで、公平性と経済性を確保するためです。
ただし、常に一般競争入札だけでは実務が回りません。そこで、特定の相手と契約する随意契約や、あらかじめ指名した業者だけで競争させる指名競争入札が使われることがあります。
随意契約とは
競争入札をせず、行政が選んだ相手と直接契約する方法です。緊急性がある場合や、特定の業者でなければ目的を達成できない場合などに用いられます。
指名競争入札とは
行政があらかじめ複数の業者を指名し、その指名された業者だけで入札を行う方法です。誰でも参加できる一般競争入札より参加者は限定されます。
判例:随意契約違反の契約の効力(最判昭62.5.19)
地方公共団体が、本来は随意契約によれない場面で、特定の業者と随意契約を結んだことが問題になりました。
ここで大事なのは、「手続ルールに違反した契約は、すべて当然に無効になるのか」という点です。
最高裁は、随意契約の制限に違反したからといって、その契約がただちに私法上無効になるわけではないとしました。
取引の相手方や社会の取引安全も考える必要があるからです。もっとも、違反の程度が重く、契約の効力を認めることが法の趣旨を大きく損なうような特段の事情がある場合には、無効となる余地があります。
判例:公共工事の指名競争入札と行政の裁量(最判平18.10.26)
公共工事の指名競争入札で、地元企業を優先的に指名する扱いが問題になりました。
最高裁は、地域経済の活性化や地元企業の育成といった政策目的を考え、地元企業を優先して指名すること自体は合理的な裁量の範囲内としました。
ただし、長く指名を受けてきた特定の業者を、合理的な理由なく突然外すような扱いは別です。そのような場合には、裁量権の範囲を超えて違法となることがあります。
コタロー
手続違反があるとすぐ契約が消えると思っていたけど、取引安全も見るんだね。入札でも、行政には一定の判断の幅があるんだ。
ワンブル先生
そうだね。ただし、手続ルールを軽く見ていいという意味ではないよ。税金を使う契約だから、公平性や合理性が厳しく問われるんだ。
行政計画とは何か
行政計画とは、行政が将来の行政活動について、目標や手段をあらかじめ定めるものです。
都市計画、道路計画、地域開発計画、環境保全計画などをイメージするとよいでしょう。
行政計画には、行政の内部方針に近いものから、土地利用や建築制限に大きく影響するものまであります。そのため、法律の根拠が必要か、取消訴訟で争える処分に当たるかは、計画の性質によって変わります。
法律の根拠が必要な計画
国民の権利を制限する行政計画には、法律の根拠が必要です。
都市計画で建築制限がかかるような場合、国民の土地利用に直接影響します。行政が自由に計画を作って権利を制限できるわけではありません。
これに対して、行政内部の目標や努力方針にとどまる計画であれば、個別の法律の根拠が問題になりにくい場合もあります。
行政手続法に一般的な計画策定手続はない
行政手続法には、処分、行政指導、届出、命令等を定める手続などのルールがあります。
しかし、行政計画を作るときの一般的な手続ルールは、行政手続法には置かれていません。
計画の策定手続は、都市計画法など、個別の法律ごとに定められています。
行政計画に処分性はあるか
行政計画は、将来の方針や目標を示すものにとどまることが多いです。
その場合、特定の人の権利義務を直接変えるものではないため、原則として取消訴訟の対象となる処分には当たりません。
ただし、計画の決定によって、特定の土地や権利に具体的・直接的な影響が生じる場合は例外です。
小田急高架化事業に関する都市計画決定では、都市計画決定の段階で関係住民や土地所有者の権利に現実的な影響が出ることから、処分性が認められました。
処分性とは
取消訴訟で争える行政の行為に当たるかどうかを示す考え方です。国民の権利義務に直接具体的な影響を与える行政活動かどうかがポイントになります。
計画保証責任
行政計画は、社会情勢や財政事情の変化に応じて変更されることがあります。
そのため、「一度立てた計画は絶対に変えられない」とは考えません。
しかし、行政が特定の人に対して計画を強く信頼させ、その信頼に基づいて土地を買ったり、店舗を建てたり、多額の投資をしたりしたあとで、合理的な理由なく計画を変更すれば、その人に大きな損害が生じます。
このような場合、計画を信頼した人を保護するために、国家賠償責任が問題になることがあります。これを計画保証責任と呼ぶことがあります。
計画保証責任とは
行政計画を信頼して行動した人が、あとから計画を変更されて特別な損害を受けた場合に、行政が損害賠償責任を負うことがあるという考え方です。
判例の整理
判例:公害防止協定の法的拘束力(最判平21.7.10)
産業廃棄物処分場をめぐって、事業者と町が公害防止協定を結びました。
協定の中には、一定の期限が来たら処分場を使わない、という約束がありました。ところが、期限が過ぎたあとも、事業者は処分場を使い続けました。
町側は、協定で決めた期限を守るよう求めました。これに対して事業者側は、「県知事の許可はまだ有効なのだから、町との協定だけで使用をやめさせることはできない」と争いました。
産業廃棄物処分場とは
工場や事業活動から出る廃棄物を処理する施設です。周辺環境への影響が大きいため、設置や運営には行政の許可や地域との調整が問題になります。
最高裁は、事業者が自由な意思で将来の事業廃止や施設使用終了を約束すること自体は可能だとしました。
そして、県知事の許可がまだ有効な期間内であっても、その約束が廃棄物処理法の趣旨に反するとはいえないとして、公害防止協定の法的拘束力を認めました。
つまり、「法律に明文がないから協定には拘束力がない」とは言えないのです。自由意思で結んだ行政契約なら、その約束が法律の趣旨に反しない限り、法的拘束力が認められることがあります。
まとめ
行政契約は、行政が一方的に命令するのではなく、相手方との合意によって行政目的を実現する方法です。
まずは、準備行政・侵害行政・給付行政の3つに分けて考えます。準備行政は庁舎建設や物品購入、侵害行政は公害防止協定、給付行政は水道供給や公営住宅の利用関係をイメージすると整理しやすいです。
行政契約は、原則として法律の根拠がなくても結べます。ただし、税金を使う契約では入札などの手続ルールが重要です。随意契約の制限に違反しても契約が当然に無効になるわけではありませんが、公平性や法の趣旨を大きく損なう場合には無効が問題になります。
行政計画は、将来の行政活動の目標や手段を定めるものです。原則として処分性はありませんが、具体的・直接的に権利へ影響する都市計画決定などでは、例外的に処分性が認められることがあります。
計画を信頼して投資した人に特別な損害が生じた場合には、計画保証責任として国家賠償責任が問題になることもあります。
チェックリスト
- 行政契約は、合意によって行政目的を実現する方法
- 準備行政の契約は、庁舎建設・物品購入など行政活動の準備
- 侵害行政の契約は、公害防止協定など相手の活動を制限する契約
- 給付行政の契約は、水道供給・公営住宅など公共サービスを提供する契約
- 行政契約は原則として法律の根拠不要
- 随意契約違反は即無効ではなく、特段の事情がある場合に無効となり得る
- 公害防止協定には法的拘束力が認められることがある
- 行政計画は原則として処分ではないが、例外的に処分性が認められることがある
- 計画保証責任では、計画への信頼と特別な損害がポイントになる